エムステージの新型コロナ感染症対策 ―社員の健康を守り、事業継続を目指す中小企業の取り組み方―

世界的な感染症の流行と共にはじまった2020年。エムステージも一企業として初めて対峙する危機の中、従業員を守るため、事業を継続させるため、対策を進めてきました。社員数約140名。今回のエムステージグループの感染症対策の取り組みを、主導した労務担当の田中さん、法務 兼 情報セキュリティ管理室室長の尾尻さんとともに振り返ります。

株式会社エムステージホールディングス 管理部 労務  田中さん(写真左)
人事総務業務に通算10年以上携わり、2019年エムステージホールディングス 入社。労務担当として産業保健活動を推進している。

株式会社エムステージホールディングス 管理部 法務 兼 情報セキュリティ管理室室長 尾尻さん(写真右)
ヘルスケアサービス企業での営業職を経て、2020年エムステージホールディングス入社。法務 兼 情報セキュリティ管理室室長として管理部門の強化に携わる。

手探りのなかでの初期対応。外部の専門家のアドバイスを活用

――1月の衛生委員会から対策がスタートしたと認識しています。日本の感染一例目が1月16日ですから、早い段階で対策を始められましたね。

田中:1月は手洗いうがいなどの基本的な感染症対策の考え方を衛生委員会で産業医の先生に教えて頂き、全社員に共有するところから始めました。正直、この頃はまだこれほどの感染症になるとは思っておらず、情報提供も一般的なものでした。

――初期対応で大切にした点はありますか。

田中:毎朝の健康確認では、あいまいではなく「37.5℃以上の発熱を報告」など、基準を明確にするべきという産業医の先生のアドバイスもあって、数値管理を意識しました。また体調不良時に休みやすい雰囲気の醸成や、個別の家庭状況に応じた対応も大切にしたポイントです。

――私も子供がいますが、登園自粛など状況に合わせて柔軟に勤務をと声をかけてもらい、気が楽になりました。専門的な部分については、産業医の先生のアドバイスを参考にされたのですね。

田中:長く人事総務業務に携わってきましたが、これまで勤務した企業ではここまで産業医の先生と協力して取り組みを推進していくという経験がありませんでした。エムステージに入社してから、産業医はこんなに企業に入り込んで一緒に活動を行っていくんだ!と驚いています。

――7月までの間に70を超えるコロナに関する情報共有・注意喚起・取り組みの発信がありました。

田中:“感染者を絶対に出さない”と決意し、一次情報にもとづいた正しい情報の提供と注意喚起の徹底を心がけていましたね。コロナが流行していない地域の支社にも同一の情報発信を行い、全国に拡大した時に備えました。夢中で発信していたのであまり気付かなかったのですが(笑)、そんなに発信していたのですね。

緊急事態宣言を見据えた、短期間での制度・体制構築

――エムステージではこうした緊急時のBCP(事業継続計画)を策定していたのでしょうか

尾尻:コロナの流行初期はありませんでしたね。ちょうど管理部内で検討をしていたタイミングだったので、感染症対応も含めたBCPを完成させました。

田中:BCPを策定頂くまでは、先に感染症の緊急対策フローや安否確認フローをまとめて、社員に告知しました。
あとは日々変わりゆく情報を確認しながら、緊急事態宣言の発令を想定して、事業を継続していくための施策を管理部会議で随時検討していきました。在宅勤務手当の新設や社員全員へのノートPCと携帯電話の貸与、安否確認システムなど、整えるべき部分が本当にたくさんありました。

――緊急事態宣言前に、全社員が在宅でスムーズに業務を継続できる体制ができあがっていましたね。本当にすごいなと思いました。

尾尻:管理部でDXを推進するための体制を整えようとしているタイミングだったので、オンライン会議システムやチャットツール、電子契約等の検討を既にはじめていたんです。緊急事態宣言前に、事業継続に支障のない状態に持っていけたことはよかったですね。

――タイミングも合ったのですね。とはいえ、緊急事態宣言前のこの時期は、多くの対策をまとめられ大変なことも多かったと思います。

尾尻:一気に導入したたくさんのツール(=システム)とルール(=セキュリティ)の双方を、短期間で全支社の社員に浸透させる方法には気を使いました。定期的に部署ごとの利用説明会を設定するなど工夫しました。

――作りこまれたマニュアルで、何度も説明くださいましたよね。田中さんは、この時期苦労した点についていかがですか

田中:私は、やはりどこまで事態が大きくなるかが分からなくて、企業としてどこまで取り組むべきなのかを模索しながら対応していたことです。いつも一つの事案に対して深刻度が低い~高い想定まで、3つ4つくらいの選択肢を検討していました。 自分だけでは想像が及ばないこともあるので、着眼視点にモレはないか、危機意識の高い人の意見も聞いていつも最悪のケースまで想定しましたね。

この危機を皆で乗り切らないといけない、一緒に乗り切ろうという意識をどれだけ醸成できるか―。

――取り組み全体についてはいかがですか?留意された点や苦労された点を聞かせてください。

尾尻:先ほどの田中さんのお話と同じで、法務としても前例がない、答えがない、今後どうなるか分からない、という中で、いくつもパターンをシュミレーションしました。社員に納得してもらえる決定でなければいけない、事業継続に支障がでてもいけない、どこまでのリスクをとるかー。難しい判断でした。

田中:そうですよね。経営の意思と、従業員の立場。平時と同じようには行かないけれど、この状況だから納得できる落としどころを模索するのはやはり大変でしたよね。

尾尻:エムステージの社風として「意見を言える環境だな」と入社して感じていて、会社から下りてきたものにただ従うのではなくて、言いたいことがあれば全社員から意見がどんどん上がってくる。
だからこそ、この前例のない状況に対する会社としての危機感を、いかに全社員の納得感を得られる言葉にして伝えられるか。皆で乗り切らないといけない、一緒に乗り切ろうという意識をどれだけ醸成できるかがポイントだと思いました。

田中:色んなケースを想定しつつも、結果的にどれも想定より社員の納得感の高い施策に着地できたことはよかったと思っています。

――6月には社員アンケートを実施して、現場の声も回収されていましたね。

田中:5月までは、無我夢中で走り続けてきた4ヶ月でした。ようやく少し落ち着いたところで、フィードバックをもらいたいなと思ったんです。

尾尻:その都度ベストだと思える対策を選んできましたが、何をやって来たのか、何が足りなかったのか、総括して振り返りをしなければと思いました。管理部だけではなく、全社で振り返る機会が必要だと感じました。

――全体的には88%が満足という結果でしたね。

田中:おおむね、前向きな回答だったと思います。現在はまた禁止していますが、6月は社会の様子をみて社員ランチの解禁など、対策を一時的に緩めた時期であったので、まだ緩和は早いのではないかなどの意見も頂きました。アンケートを参考に今後の対策に活かしていきたいです。

従業員と経営のバランス―。案件に応じたバランス感覚を磨いていきたい

――管理部門のメンバーとして仕事をする上で、ご自身が大切にされていることはありますか

尾尻:管理部門は経営側に近くなりますが、一方に偏らないように気を付けています。もともと営業職でしたので、営業目線、社員目線は意識しています。特に発信は一方的にならないよう、事業部や社員の考えも確認しながら進めています。

田中:私もやはり、大切にしているのは従業員と経営のバランスですね。 使用者と労働者という単なる雇用関係ではなく、事業を発展させていくため相互に高め合えるパートナーシップを築けるよう好循環を生み出す“ ハブ ”になりたいと考えています。 従業員側の権利に寄って会社として成り立たなくなることも、会社側に寄って従業員がパフォーマンスを発揮できなかったり離れてしまうことも、どちらもリスクです。今後も、今回のコロナ対応のように想像がつかない事案や未知の事案もあると思いますが、案件に応じたバランス感覚を常に磨いていきたいと思っています。
また、中小規模の企業はどこも内部にプロフェッショナルが不足しがちという課題があると思いますが、外部の専門家・リソースと上手に連携して行くことで、スピードと正確性をもって判断していけると感じています。

――コロナとの共存は続いていきます。今後の対策方針について教えてください。

田中:「感染者を出さない」が当初の目標でしたが、今は出てしまうことを想定した上で「社内クラスターを発生させず、事業運営との両立を加速させる」ことを方針にしています。緊急対応マニュアルも、感染後対応の部分を強化しました。
また“ウィズコロナ“と言われる時代において、社員の健康リスクを把握して、感染リスクに応じた対応を個別にみていくことも考えています。例えば、この人は持病があって感染リスクが高いので、他の社員よりも踏み込んだサポートが会社として必要だ、というようなことですね。ただ要配慮個人情報でもある病歴や健康情報をどう取り扱っていくのかなど、産業医など外部の専門家のアドバイスも得ながら構築していきたいと思っています。

尾尻:法務としては、社員の安全配慮の観点からも、社内クラスター発生防止施策等引き続き対策をしっかりと行っていきたいと思っています。
情報セキュリティ管理室としては、オンライン営業の強化を検討しています。オンラインでの社内外の“コミュニケーション”はスムーズに行えていますが、企業として売上を上げていくためにはオンラインでの“営業”がキーとなります。セキュリティも保ちながら、オンライン営業がより強化されるような体制を整え、根付かせることをミッションの一つとしています。また管理部全体でも、より効率的で持続的な体制構築のために、引き続きDXを推進していきます。
コロナは、企業が変わるチャンスでもあります。

――田中さん、尾尻さん、お話ありがとうございました。