産業医 西本真証氏が、(株)エムステージの顧問に就任

株式会社エムステージは2022年9月、センクサス産業医事務所 パートナー医師/ヘルス・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役の西本 真証氏を顧問として迎えました。
西本氏の考える産業保健の意義や顧問就任の背景についてお話を伺いました。

センクサス産業医事務所 パートナー医師
ヘルス・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役
西本 真証(にしもと まさと)氏
産業医科大学医学部医学科卒業。新日鐵住金株式会社 専属産業医、(株)三越伊勢丹ホールディングス 統括産業医を経て現職。日本産業衛生学会 産業衛生専門医・指導医、産業医科大学 非常勤助教。専門は産業医学、産業保健活動実務、メンタルヘルス、健康経営。

――産業医を志したきっかけを教えてください

私は産業医科大学を卒業したのですが、当初は臨床医を志望していました。
和歌山の労災病院に入職したのですが、大手鉄鋼メーカーなどのある工業団地に近く、労災疾患で運ばれてくる患者さんが多かったですね。例えば「上から落ちた」「熱中症になった」といったものです。経験を積む中で臨床医としての手技が増えていき、患者さんにも感謝され、非常にやりがいを感じていました。スタッフにも恵まれて、とてもよい環境でしたね。

――臨床医として、順調なスタートを切られたのですね

ですが次第に、治る病気を治して感謝されるのもいいけれど、亡くなる方に対して医師として何か出来ることはないかと考えるようになりました。医師を目指したきっかけでもあるのですが、実家が寺院であることもこうした思いに至る背景にあったと思います。
そこで、がんと緩和ケアを学ぶために、がん専門病院に入職しました。緩和ケアとは、主にがんに伴う身体や心の苦痛をやわらげるための医療やケアです。

そこでは年間200名程度の患者さんが亡くなられる場に立ち会うことになりましたが、その6割が20~60代の働く世代でした。闘病中も、入院しているベッドの上から仕事の指示をされたり、今でいうパーパスとも言えるのでしょうか、亡くなる直前までご自身の社会的な存在意義を追及するように生きられる方がとても多くいらっしゃることに衝撃を受けました。「がんになったからのんびりしたい」というような人は、一人もいなかったのですね。

そのような患者さんたちと向き合い、年間100人以上の働く世代の死に立ち会う中で、「働く世代が生産性高く健康的に働いて、社会に貢献するのを支える医師になろう」という思いが芽生え、産業医科大学に戻りました。この時の経験がなければ、産業医を志すことはなかったと思います。

――病気は高齢の方のイメージがありますが、働く世代でも多くの方が病気で亡くなられているのですね

労災も、働く世代のものですね。熱中症、転落、自殺等で亡くなられる方もいらっしゃいます。
そして、やはりがんです。がん専門病院では「毎年の健康診断を放置していて、気がついたら末期で余命数ヶ月」というような患者さんがどんどん運ばれてきましたが、まだ20代の女性や、小さなお子さんを持つ方も多くいらっしゃいました。働く世代の患者さん達を絶対に減らしたい、と強く思いました。

――その後、産業医としてのキャリアをスタートされます

産業医科大学で改めて労働衛生を学んだ後は、大手鉄鋼メーカーの専属産業医として研鑽を積みました。産業医科大卒の産業医が多く、指導や業務のしくみが整っており、恵まれた環境でした。メンタルヘルスから有害作業まで、幅広く経験することが出来ました。
その後は、大手小売業の統括産業医を経て、2016年に独立しました。当時はまだ産業医の発言権があまりなかった時代でしたので、企業とのコミュニケーションに苦労することも多かったのですが、その時の経験が今、非常に活きています。

――現在はどのような活動をされていらっしゃるのでしょうか

現在は産業医として、30~40社を担当しています。事務所全体では、100社程度の企業様と契約しています。
事務所に所属する産業医は、全員が日本産業衛生学会の産業衛生専門医や指導医を取得しており、女性医師や産業医科大以外の医師、メンタルヘルスに強い精神科医、有害作業の専門家等、産業医の中でも専門性を持った人材が揃っているところが特徴です。

――多種多様な企業様を支援する中で、最近の企業の変化や課題があれば教えてください

企業の傾向として、2パターン化していると感じています。
一つは、今年は人的資本経営の元年だと言われていますが、その中で健康経営も絡めて先進的に活動をしたいという企業、もう一つはコスト優先でリスクヘッジだけやってほしいという企業です。
私の下には、コストがかかってもきちんと対応してくれる産業医を探しているというご依頼が近年増えています。「以前も産業医を選任していたけれど、トラブルに対応してくれなかった」という経験のある企業様が多いですね。

――エムステージの産業医紹介サービスでも、新型コロナ対応に協力してもらえなかった等の理由で産業医の相談に来られる企業様が増えていると聞きます

提供する産業保健施策を自動車に例えて、「私たちは、高速道路でもどんな道でも走れるSUVを提供しています」という言い方をすることもあります。
一方で、どんな車が欲しいのか、企業が何を求めているのか、最初に必ずそれぞれの企業のニーズを確認するようにしています。

――産業保健はこうあるべき、というような決まった活動ではないのですね

はい。あくまで主役は企業ですから、こちらから「これがいいですよ」と押し付けることはしません。企業にはそれぞれの経営戦略があり、その上で人材戦略があります。健康戦略は、その人材戦略のあくまで一部分でしかありません。ですから、それぞれの企業のカルチャーを尊重した提案を心がけています。
ただ、経営戦略がないままだと、産業医もどの方向を向いて舵を切っていいのか分かりませんので、必ず最初にヒアリングはおこなうようにしています。

――今回、エムステージの顧問に就任頂いた背景を教えてください

人的資本経営、健康経営が注目を集める中で、産業保健に取り組む企業は増え、ニーズも多様化しています。また医師側においても、産業医への関心が高まっており、志す先生も増えています。
一方で、臨床業務の合間に産業医として活動する先生もいらっしゃる中で、企業のニーズに応えられる産業医としての意識やスキルの差が拡大しているという課題を感じています。
エムステージ社と連携することで、産業保健に取り組む企業と産業医になる医師が増えていくにつれて大きくなる、このような企業と産業医間のギャップを埋めるような取り組みができればと考えています。

――これからも人的資本への投資はますます増加すると考えられます

ビジネスのスピードが上がっている中で、企業の人的資本への投資は間違いなく伸びていくでしょう。ですが産業保健は今、非常に注目を集めている半面、過渡期に来ているとも言えます。
期待が大きい分、きちんと健康投資の成果を出していかないと、産業保健を企業に定着させることはできません。ではどうして成果を測っていくのか?何を成果とするのか?正解は一つではないので、この点についても、エムステージ社と共に業界全体に対して発信を行っていければと思います。

――ありがとうございました